腎臓には、血液を濾過して老廃物を尿として排出したり、血圧や水分量、体液のバランスを調節したりするなどの役割があります。
何らかの原因によって腎臓がダメージを受けて、十分に機能しなくなった状態が『腎臓病(腎不全)』です。
腎臓病には急性腎障害と慢性腎臓病があり、なかでも慢性腎臓病は回復が難しい病気です。
今回は、慢性腎臓病の原因やステージ別の症状、治療法について詳しく解説します。
石川 愛美
日本獣医生命科学大学獣医学部 卒業
予防獣医療を専門とする動物病院を2019年に開設。
「病気になる前に」をテーマに掲げ、健康寿命を延ばすための活動を実施。
また、事業会社向けコンサルティングや専門学校講師、記事執筆、勉強会等も行っている。
石川先生の監修した記事一覧
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- 犬の腎臓病について
- 犬が慢性腎臓病(腎不全)になってしまう原因
- ステージ別の犬の慢性腎臓病の症状と治療法
- 犬の腎臓病(腎不全)を予防する方法:細やかな健康管理、いつでも水が飲めるようにする、栄養バランスを考えた食事を与える
犬の腎臓病(腎不全)とは?
犬の腎臓病には、主に『急性腎障害』と『慢性腎臓病』があります。
それぞれの違いを確認していきましょう。
急性腎障害
急性腎障害(急性腎臓病)は、数時間から数日の間という短時間で腎機能が低下するのが特徴です。
人間の薬、ブドウ(レーズン含む)、ユリ科の植物、不凍液に含まれるエチレングリコールなどによる中毒、重度の脱水や心臓病による腎臓への血流低下といったことが原因になります。
急激に症状が進行することもあり、1時間前まで普段通りだったのに、突然元気がなくなって動かなくなってしまうことも珍しくありません。
急性腎障害は早期的な治療によって腎臓の機能が回復する可能性があるため、早期発見、早期治療が重要です。
慢性腎臓病
慢性腎臓病は、高齢の犬によく見られ、数ヶ月から数年という時間をかけて徐々に腎臓の機能が低下していく病気です。
初期では症状がほとんど現れず、腎臓の機能の大半が失われてから目立った症状が現れます。
そのため、初期段階で飼い主が気づきにくく、異変に気づいた頃には病気が進行している場合がほとんどです。
一度失われた腎臓の機能は基本的に回復しないため、慢性腎臓病になってしまった場合は完治する方法がありません。
慢性腎臓病はすべての犬種にかかる可能性がありますが、以下の犬種が発症しやすいといわれています。
- ブルテリア
- イングリッシュコッカースパニエル
- ウェストハイランドホワイトテリア
- キャバリア
- サモエド
- ドーベルマン
- シーズー
- ヨーキー
- ボクサー
- シャーペイなど
犬が慢性腎臓病(腎不全)になってしまう原因
犬の慢性腎臓病の原因はわからないことが多いですが、以下のようなことが関係していると考えられています。
- 加齢に伴う腎臓の線維化
- 慢性的な尿路閉塞
- 免疫疾患
- 遺伝
- 外傷
- 細菌やウイルスの感染症
- 心筋症やショックなどによる腎血流量の低下など
糸球体には血液中の老廃物を濾過して尿として排出する役割があり、障害を受けると腎臓機能が低下し、さまざまな症状が起こるようになります。
【ステージ別】犬の慢性腎臓病の症状と治療法
犬の慢性腎臓病では、主に以下のような症状が現れます。
- 多飲多量(飲水量が増える・尿量が増す・尿の色やニオイが薄くなる)
- 食欲不振
- 毛ヅヤが悪くなる
- 体重減少
- 嘔吐
- 貧血
- 下痢
- 口臭
- 脱水
- けいれん発作
血液検査、尿検査、超音波検査などの検査や行動の変化により、進行度はステージ1〜4に分けられ、ステージが進むほど症状が重くなります。
ステージ | 腎臓機能残存率 | 主な症状 | 検査所見 |
---|---|---|---|
ステージ1 | 100~33% | 目立った症状なし | 尿検査:尿比重低下、蛋白尿異常の可能性あり 画像診断:腎臓形状異常の可能性あり |
ステージ2 | 33~25% | 多飲多尿(場合により) | 血液検査:腎臓数値正常範囲~やや高値 尿検査:尿比重低下、蛋白尿異常の可能性あり |
ステージ3 | 25~10% | 食欲不振、嘔吐、脱水、口臭、体重減少、口内炎、胃炎、貧血、活動量低下 | 血液検査:腎臓数値高値 尿検査:異常値 |
ステージ4 | 10%以下 | 尿量減少~無尿、意識障害、重度の下痢、けいれん発作など | 血液検査:重度の腎臓数値異常 尿検査:重度の異常値 |
ステージ別の特徴や症状を確認していきましょう。
ステージ1
ステージ1は、腎臓の機能が100〜33%残っている状態です。
目立った症状がなく、見た目や行動の変化がないため、この段階で飼い主が気づくのは難しいでしょう。
血液検査でも異常値は見つかりませんが、尿検査で尿比重の低下や蛋白尿の異常、画像診断検査で腎臓の形状の異常が見つかることがあります。
ステージ2
ステージ2は、腎臓の機能が33〜25%残っている状態です。
このステージでは、症状がない場合や慢性腎臓病の初期症状である『多飲多尿』が起きることがあります。
多飲多尿は腎機能の低下によって尿を濃縮する機能が低下し、薄い尿を大量にすることで体内の水分量が減り、水をたくさん飲むようになる症状です。
元気や食欲があり、普段と見た目や行動が変わらないため、異常に気づかないことも多いです。
血液検査では、腎臓の数値が正常範囲〜やや高値で検出されることがあります。
ステージ3
ステージ3では、さらに腎臓の機能が低下し、25〜10%しか残っていない状態です。
このステージになると、腎機能の低下によって老廃物を尿中に排泄できなくなり、以下のような尿毒症の症状が現れます。
- 食欲不振
- 嘔吐
- 脱水
- 口臭
- 体重減少など
血液中の有害物質が蓄積されることで、口内炎や胃炎も起きやすくなります。
また、腎臓は赤血球の生成を促すホルモンを分泌する役割があるため、機能が低下すると貧血を起こして活動量が低下することがあります。
ステージ3まで進行するとさまざまな症状が現れるため、飼い主はこの段階で気づくことが多いです。
ステージ4
ステージ4は末期の状態で、腎臓の機能は10%以下になります。
尿毒症の症状がさらに悪化し、「尿がほとんどでない」または「尿が出ない」、意識障害、重度の下痢、けいれん発作など重度の症状が現れます。
積極的に治療を行わないと生命の維持が難しいです。
一般的な治療法
一度壊れてしまった腎臓の組織は回復することがないため、慢性腎臓病は完治が難しい病気です。
そのため、一般的な治療では、症状を抑え、残っている腎臓機能をサポートして進行を緩やかにする治療を行います。
主な治療法は、以下の通りです。
- 点滴:腎臓への血流を安定させる、脱水を改善させる、老廃物の排出を促す
- 食事療法:リン・タンパク質・ナトリウムなどを制限して、腎臓への負担を抑える
- 薬物治療:嘔吐がある場合は吐き気止め、血圧が高い場合は降圧剤など、症状に適した薬で症状を抑える
犬の腎臓病(腎不全)を予防する方法
慢性腎臓病は明確な予防方法はありません。
そのため、健康が維持できる環境を整えて、発症した場合は早期に発見することが大切です。
ここでは、犬の腎臓病(腎不全)を予防する方法として、日常生活でできることを紹介します。
細かな健康管理
普段から愛犬の体重や行動、体の状態などを確認しておき、しっかりと健康管理をすることが大切です。
水を飲む量や尿量、尿の色やニオイも確認しておくと、初期症状の多飲多尿に気づきやすくなります。
多飲・多尿の目安は以下の通りです。
- 多飲:1日の飲水量が体重1kgあたり90~100ml以上
- 多尿:1日の尿量が体重1kgあたり50ml以上
しかし、多飲多尿の初期では元気や食欲があるため、飼い主が気づいたときにはある程度症状が進行してしまっていることが少なくありません。
腎臓病を早期に発見するには、尿検査を含めた定期的な健康診断を行うとよいでしょう。
小型犬の場合、6歳までは年に1回、シニアに入ってくる7歳以降は半年に1回を目安に健康診断を受けることをおすすめします。
いつでも水が飲める環境を作る
腎臓病予防には、いつでも新鮮な水が飲める環境を保つことも重要なポイントです。
水を飲むことで排尿を促し、腎臓への負担を低減できます。
複数の水飲み場を作る、飲みやすい温度に調整する、散歩中は携帯用の給水器を持ち歩くなどの方法で、水分を摂取させましょう。
きちんと水を飲んでいるか把握するには、容器に入れる水の量を計っておき、24時間後に容器に残っている水の量を確認すると、1日の大体の飲水量がわかります。
栄養バランスを考えた食事を与える
腎臓に負担をかけないように、栄養バランスを考えた食事を与えるようにしましょう。
良質なタンパク質を適量摂取し、ナトリウムやリンの含有量の多い食品をなるべく控えるのがポイントです。
フードやおやつの表示をよく確認して、愛犬の健康を維持しやすい食事を与えましょう。
人間の食べ物は塩分が高く犬の腎臓に負担をかける可能性があるので、与えないようにしましょう。
犬の腎臓病は早期発見が重要!
犬の腎臓病は初期症状に気づきにくく、完治が難しい病気です。
普段から愛犬の様子を観察して、細かな健康管理や定期的な健康診断、尿検査をすることで早期発見・早期治療につながります。
慢性腎臓病を発症した場合は、辛い症状を緩和して、進行を遅らせる治療をしてあげることが大切です。
今回紹介した情報を参考にして、愛犬が健康でいられるようにサポートしてあげましょう。
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