アレルギーは原因となる物質(アレルゲン)が体内に侵入してきたときに、免疫機能が過剰に反応してさまざまな症状を起こすものです(アレルギー反応)。
猫も人と同じく、アレルギーを発症することがあります。
今回は、猫のアレルギーの原因や症状、治療法について詳しく解説します。
栗山 宏美
麻布大学獣医学部獣医学科卒業
動物病院で3年間臨床医として勤務
現在は臨床医として働きながら保護猫活動のための診療施設ろろの猫部屋を開業
同時に栄養学専門獣医師として手作り食のレシピ設計や監修を行うろろの犬猫食堂を運営
栗山先生の監修した記事一覧
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- 猫の3大アレルギー:ノミアレルギー性皮膚炎、環境アレルギー(アトピー性皮膚炎)、食物アレルギー
- 各アレルギーの検査や診断方法、原因、症状、治療方法
- 猫アレルギーを根本的に直せるかどうか:結論難しい
猫のアレルギーは大きく分けて3種類!
猫が特定の所をよくかいていたり、皮膚に赤みやブツブツなどの症状があるときは、何らかの物質にアレルギーを起こして、皮膚症状が起きている可能性があります。
猫のアレルギーは、主に「ノミアレルギー性皮膚炎」「アレルギー皮膚炎(アトピー性皮膚炎)」「食物アレルギー」があります。
項目 | ノミアレルギー性皮膚炎 | 環境アレルギー | 食物アレルギー |
---|---|---|---|
主な原因 | ネコノミの唾液 | ハウスダスト、ダニ、花粉など環境物質 | 食材のタンパク質、添加物 |
検査・診断 | 身体検査(ノミ、フン、卵の確認)、アレルギー検査 | 除外診断(他の皮膚疾患や呼吸器疾患などを除外) | 除去食試験、食物負荷試験、アレルギー検査(場合による) |
主な症状 | 腰背部の粟粒性皮膚炎、強いかゆみ、自己損傷性脱毛、無痛性潰瘍 | アトピー性皮膚炎(全身に強いかゆみ、特に頭部、耳周り、粟粒性皮膚炎、脱毛、掻き壊し)消化器症状や呼吸器症状 | 顔周りのかゆみ、脱毛、外傷、消化器症状(下痢、嘔吐) |
治療法 | ノミ駆除薬(滴下剤、経口剤)、ステロイド剤、抗生剤、環境清掃 | ステロイド剤、抗ヒスタミン剤、サプリメント、生活環境改善、免疫療法 | 除去食療法、低アレルギーフード、場合により外用薬、内服薬 |
特徴 | 1歳以上の猫、屋外猫に多い、季節性(夏秋) | 遺伝的素因、皮膚バリア機能の弱さ | 顔周りのかゆみ、消化器症状を伴うことが多い |
それぞれ種類別に詳しく見ていきましょう。
【猫のアレルギー】ノミアレルギー性皮膚炎
ここでは、ノミアレルギー性皮膚炎の検査・診断方法、原因、症状、治療法を紹介します。
検査・診断方法
ノミアレルギー性皮膚炎の診断は、身体検査と問診を中心に行います。
まずは猫の皮膚や毛を観察して、ノミ、ノミのフン、虫卵の有無を確認します。
季節(夏〜秋はノミが活発になる)や、猫の年齢、飼育環境、症状などを確認した上でアレルギー検査を行い、ノミに対するアレルギーの有無を確認します。
原因
ノミアレルギー性皮膚炎の原因は、猫に寄生するノミ(主にネコノミ)の唾液です。
ノミが猫の血液を吸うとき、唾液に含まれるタンパク質などの物質がアレルゲンとなり、皮膚症状が起こります。
1歳以上の猫に起こりやすく、外に出ることがある猫がかかりやすい病気です。
ノミアレルギー性皮膚炎は猫で多く見られる皮膚疾患ですが、生活環境の向上により、室内で飼っている猫の発症率は減少しています。
症状
ノミに噛まれると、アレルギーを持っていなくても軽いかゆみやブツブツができることがあります。
ノミアレルギー性皮膚炎の場合は、強いかゆみと腰背部に粟(あわ)のような小さな赤いブツブツができる『粟粒性皮膚炎(ぞくりゅうせいひふえん)』が主な症状です。
強いかゆみがあるため、自己損傷性脱毛や無痛性潰瘍を引き起こすこともあります。
これらの症状は他の皮膚疾患でも発生しやすいため、見た目だけではノミアレルギー性皮膚炎と判断するのは難しいです。
治療方法
ノミアレルギー性皮膚炎の治療では、原因となっているノミの駆除をし、症状を抑える処置を行います。
ノミの駆除薬は滴下剤や経口剤があり、薬剤の種類が豊富にあるため、獣医師と相談して適したものを使いましょう。
皮膚炎の治療には、ステロイド剤や抗生剤などを使います。
猫に寄生しているノミを駆除しても、環境の中にノミの成虫や虫卵、蛹がいる可能性があるため、掃除や家庭用の噴霧剤などで除去することも大切です。
【猫のアレルギー】環境アレルギー(主にアトピー性皮膚炎)
ここでは猫の環境アレルギーの主な症状であるアトピー性皮膚炎の検査・診断方法、原因、症状、治療法を紹介します。
検査・診断方法
猫のアトピー性皮膚炎の診断は、似た症状が出る他の皮膚疾患の検査をして可能性を除外して診断するのが一般的です(除外診断)。
ノミやカビ、細菌の感染、食物アレルギーなどの有無を確認し、出ている症状の特徴もあわせて他の皮膚疾患との違いを診ていき、アトピー性皮膚炎かどうか診断します。
原因
アトピー性皮膚炎は、ハウスダストやダニ、花粉など環境中の物質が原因とされています。
ただ環境中の物質に反応しているわけではなく、遺伝的に皮膚のバリア機能が弱いことや、ストレスや温度、湿度など、さまざまな要因が重なって発症すると考えられています。
症状
アトピー性皮膚炎の主な症状は全身に生じる強いかゆみです。
とくに、耳の周りを中心に頭から首にかけて起こりやすく、小さな赤みのあるブツブツ(粟粒性皮膚炎)が生じることがあります。
花粉やカビなどが原因の場合、季節によってかゆみの強さが異なる場合があります。
かゆいところをかいたり舐め回したりすることで、脱毛や掻き壊しを起こすことも少なくありません。
上唇に潰瘍ができたり、口の中、肉球、腿(もも)にできものができたりする場合もあり、気管支炎や喘息など皮膚の症状以外の症状を併発することもあります。
治療方法
アトピー性皮膚炎の治療法は、ステロイド剤や抗ヒスタミン剤によってかゆみや炎症を抑える治療を行うのが一般的です。
他にも、炎症を緩和するサプリメントを与える、生活環境の改善を行うといった対策があり、複数の治療法を組み合わせる場合もあります。
アレルゲンに徐々に慣らして体質を改善する免疫療法を行うこともありますが、完治は難しいといわれており、継続的に治療を行っていくことが大切です。
【猫のアレルギー】食物アレルギー
ここでは、食物アレルギーの検査・診断方法、原因、症状、治療法を紹介します。
検査・診断方法
食物アレルギーを診断する際は、『除去食試験』『食物負荷試験』という食事の試験で原因を調べるのが基本です。
除去食試験とは、アレルギー症状が出ていた時に食べていた食材だけでなく、その猫ちゃんが生まれてからこれまで食べたことのあるものまで把握し、それら以外の食材を与えてみる試験です。
しかし実際にはそこまで把握できる猫ちゃんは多くないため、アレルギー食のドライフードである、加水分解タンパクや新奇タンパク(これまで食べたことのないタンパク源)を使ったごはんを使います。
約2ヶ月間与えて皮膚症状が改善するかどうか確認します。
皮膚症状が改善された場合、前の食材を少しずつ与えて症状が出るかどうかを調べる食物負荷試験を行い、原因となる食物を特定します。
動物病院によって、アレルギー検査でアレルゲンを特定する場合もあります。
原因
食物アレルギーは、体内に入ってきた食物に対してアレルギー反応を起こし、症状が現れるものです。
主にキャットフードに使われる食材のタンパク質に対して起こると考えられており、香料や保存料など添加物が原因となる場合もあります。
- 牛肉・豚肉・ラム肉などの肉類
- 魚
- 乳製品
- 卵
- 穀物類(小麦、大豆)
新しい食物だけでなく、今まで食べていた食物に対して突然アレルギー反応を起こすこともあります。
症状
食物アレルギーの主な皮膚症状は、顔まわりに強いかゆみが出るのが特徴のひとつです。
頭や首をかきこわすことが多いですが、お腹や手足にもかゆみの症状が出て脱毛や外傷を起こすこともあります。
他にも、下痢や嘔吐、頻便といった消化器の症状が起こる場合も少なくありません。
治療方法
食物アレルギーはアレルゲンを与えないことが重要なポイントになるため、食事療法によって治療を行います。
獣医師の判断により、8〜12週間以上にわたってアレルゲンを除いた除去食や低アレルギーフードを与えます。
皮膚症状や消化器症状の状態によって外用薬や内服薬を使用することもあります。
【結論】猫のアレルギーを根本的に治すことは難しい
猫のアレルギーは遺伝が関係していることもあり、根本的に治すのは難しいです。
そのため、症状の緩和には、アレルゲンを避けて刺激を減らすことが大切です。
ここでは、自宅でできる猫アレルギーの対処法を紹介します。
自宅できる猫アレルギーの対処法
ノミアレルギー性皮膚炎やアトピー性皮膚炎がある場合、定期的に部屋の掃除をしてノミやハウスダスト、ダニなどのアレルゲンをできる限り減らしましょう。
空気中に浮遊しているアレルゲンの除去には、空気清浄機も効果が期待できます。
ストレスがかゆみを悪化させる要因になる場合があるため、快適な温度・湿度に設定する、お気に入りのおもちゃを与えるなど、猫のストレスを軽減する工夫も行いましょう。
食物アレルギーの場合、獣医師に指示された食べ物や飲み物だけを与えることが大切です。
家族にも獣医師の指示をきちんと伝えて、アレルゲンが含まれているフードやおやつを誤って与えないようにしましょう。
猫のアレルギーは原因別に対処しよう!
猫のアレルギーは症状が似ていますが、それぞれアレルギー反応を起こしている物質が異なるため、原因にあわせて対処することが重要です。
猫のアレルギーは早期発見・早期治療を行うことが大切なので、定期的に猫の体の状態をチェックしておきましょう。
体をよくかいたり舐め回したりしている、皮膚に赤いブツブツや脱毛があるなど、気になることがあればすぐに動物病院を受診することをおすすめします。
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