フケは皮膚のターンオーバー(一定のサイクルで皮膚の細胞が新しく生まれ変わること)によって、古くなった角質が剥がれ落ちたものです。

犬のターンオーバーのサイクルは約20日前後といわれており、フケが出るのは皮膚のターンオーバーが正常に働いている証拠です。

しかし、いつもと違うフケが出たり、量が増えたりした場合は、生活習慣の影響による皮膚トラブルや病気の恐れがあります。

今回の記事では、フケが出る原因や考えられる病気、フケを改善するための対処法について詳しく解説します。

監修医師 往診専門るる動物病院 院長  岡田 京子
岡田 京子

岡田 京子

小動物臨床16年、往診による一般診療、終末期医療、オンラインでの診療や相談にも積極的に取り組んでおります。

<経歴> 北里大学 獣医畜産学部 獣医学科2008年卒業(獣医伝染病学研究室にてFIV.FeLV.FIPについて研究)
金沢医科大学 大学院医学研究科にて医学博士号取得。
兵庫県、石川県の動物病院で勤務。
2021年❝るる動物病院❞ 石川県初の往診専門動物病院を開業。

■代表作・主な実績 MRO北陸放送 レオスタ  2021.6.29 18:15~ / NHK かがのとイブニング 2021.7.1 18:19~ / NHKラジオ じわもんラジオ 2021.9.10 17:00~ / 北國新聞 2021.6.30掲載 / 2022.5.7掲載 富山テレビ 2022.7.14

─現在取り組んでいること 2022年、石川県近郊での野良猫のTNR活動をメインとした施設❝TNRののいちアニマルクリニック❞を開設し、地域猫に対しての活動を開始しました。

他動物病院への疾病コラム提供多数あり。

監修した記事一覧
https://woofwoof.jp/specialist/specialist-424/

<この記事でわかること>
  • 犬のフケが出る原因:皮膚の乾燥、ストレス、誤ったシャンプー方法、栄養不足
  • 犬のフケで考えられる6つの病気:感染性皮膚炎、アレルギー性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、脂漏症、甲状腺機能低下症、脱水症状
  • 自宅でできるフケの改善方法:湿度を60%前後に保つ、いつでも水分補給ができるようにする、シャンプー方法の見直し、犬のストレスを発散させる、栄養バランスの摂れた食事を与える
目次

犬のフケが出る原因4つ

犬のフケが出るときは、生活環境が関わっていることがあります。

ここでは、犬のフケが出る原因を4つ紹介します。

皮膚の乾燥によるもの

フケの原因として考えられるのは、皮膚の乾燥によるものです。

犬の皮膚は薄く、人の皮膚の1/3程度の厚みしかありません。

そのため、空気が乾燥していると皮膚の水分が蒸散して乾燥し、フケが出ることがあります。

とくに、冬場はこたつやホットカーペット、エアコンなど暖房器具の使用によって皮膚の乾燥が進み、フケが増えることがあります。

ストレスによるもの

犬のフケが出る原因としてストレスも挙げられます。

知らない人に撫でられたとき、留守番をしたとき、散歩中に苦手な犬と会ったときなど、緊張や不安、怒りなどを感じると、ストレス反応として一気にフケが出ることがあります。

また、ストレスによって免疫力が低下し、皮膚炎やアレルギー反応を起こすことによってフケが出る場合もあります。

シャンプーの方法が間違っている

愛犬の皮膚トラブルを防ぐには、定期的にシャンプーをして皮膚を清潔に保つことが大切です。

しかし、シャンプーの回数が多すぎたり、濡れたままにしていたり、お湯の温度が高すぎたり、温風を当てすぎたりすると、皮膚の乾燥を招いてフケが出る原因となります。

また、肌質に合わないシャンプー剤を使用している、ごしごし洗いをしているなどの場合、皮膚にダメージを受けてフケが出ることがあります。

栄養不足によるもの

皮膚の健康を維持するためには、5大栄養素(タンパク質、炭水化物、脂質、ミネラル、ビタミン)をバランスよく摂取する他、必須脂肪酸や亜鉛などの栄養素を積極的に取り入れていきましょう。

活動量に見合ったカロリーを摂取すること、人工添加物や着色料などのアレルギーに注意することなども大切です。

【犬のフケ】考えられる6つの病気

「いつもと違うフケが出る」「フケが多い」というときは、皮膚病や全身の病気が関わっている場合があります。

犬のフケが出るときに考えられる病気について解説します。

感染性皮膚炎(膿皮症・疥癬など)

感染性皮膚炎は、細菌や寄生虫、真菌(カビ)などに感染することで、皮膚トラブルが起こる病気です。

代表的な感染性皮膚炎は以下の通りです。

皮膚病名原因主な症状その他
膿皮症ブドウ球菌フケ、赤み、膿、痒み、脱毛
ツメダニ症イヌツメダニフケ、痒み、脱毛、湿疹子犬は重症化しやすい
疥癬ヒゼンダニ強い痒み、炎症、脱毛、フケ顔、耳、肘、膝などに多くみられる
皮膚糸状菌症糸状菌円形脱毛、大量のフケ
マラセチア皮膚炎マラセチア菌強い痒み、赤み、ベタベタしたフケ、脱毛、カビ臭い脂漏臭
【膿皮症】

皮膚常在菌であるブドウ球菌が増殖することで起こる皮膚病です。

フケの他、皮膚の赤みや膿をもつ湿疹、痒み、脱毛といった症状が現れることがあります。

【ツメダニ症】

イヌツメダニというダニの寄生によって起こる皮膚病です。

肩や背中、腰などにフケが出て、痒みや脱毛、湿疹などの症状も現れます。

成犬の場合は軽症の場合が多いですが、子犬の場合は重症になる傾向があります。

【疥癬(かいせん)】

ヒゼンダニというダニが寄生して起こる皮膚病です。

顔や耳、肘、膝などに、強い痒みや炎症、脱毛、フケなどの症状が現れます。

【皮膚糸状菌症】

糸状菌という真菌(カビ)の感染によって起こる皮膚病で、主な症状は円形脱毛と大量のフケなどです。

【マラセチア皮膚炎】

常在菌の異常増殖(マラセチア菌という真菌)、代謝異常や免疫異常が原因で起こる皮膚病です。

皮膚の強い痒みや赤み、ベタベタしたフケ、脱毛などの症状が現れることが多く、カビ臭い脂漏臭がするのも特徴です。

アレルギー性皮膚炎

アレルギー性皮膚炎はノミや食物などにアレルギー反応を起こし、主に皮膚の赤みや痒みが起こる病気です。

症状のひとつとして、フケが出ることがあります。

種類原因主な症状特徴
ノミアレルギー性皮膚炎ノミの唾液かゆみ、脱毛、赤み、尾の付け根や背中、耳に症状が出やすい、フケ激しいかゆみ1匹のノミでも発症可能
食物アレルギー特定の食物かゆみ、脱毛、赤み、口周り、耳、足など、全身に症状が出やすい、フケ消化器症状を伴う場合も

アトピー性皮膚炎

種類原因主な症状特徴
アトピー性皮膚炎環境アレルゲン(花粉、ハウスダストなど)かゆみ、脱毛、赤み、湿疹、フケ小型犬に多い、長期間続く、季節性がある場合も

アトピー性皮膚炎は、花粉やダニ、カビなど環境的な要因にアレルギー反応が起こり、皮膚に症状が現れるものです。

症状は「軽症」〜「最重症」に分けられ、それぞれ下記のような症状がみられることもあります。

一般的には脇の下、太ももの内側、足の屈曲部などに強い痒みが出るのが特徴で、フケが出ることもあります。

<症状別>

症状軽症中等症重症最重症
皮膚軽度の赤みと乾燥強い炎症を伴う皮疹 (体表面積の10%未満)強い炎症を伴う皮疹 (体表面積の10%以上、30%未満)強い炎症を伴う皮疹 (体表面積の30%以上)
痒み軽度で時々中程度で頻繁強力で頻繁非常に強く、絶え間ない
脱毛軽度で部分的中程度で広範囲広範囲で目立つ全身的な脱毛
耳の炎症軽度で赤み中程度で腫れ強い腫れと耳垢増加慢性的な炎症と痛み
二次感染軽度で稀中程度で時々頻繁慢性的な感染
その他目や鼻の分泌物 (稀)目や鼻の分泌物 (時々)目や鼻の分泌物 (頻繁)目や鼻の分泌物 (重度)
消化器症状軽度で稀中程度で時々頻繁重度で持続的

脂漏症(しろうしょう)

脂漏症は、遺伝や皮膚炎、誤ったスキンケア、ホルモンの病気などによって皮膚のターンオーバーのサイクルが短くなり、皮膚の乾燥や皮脂の過剰分泌を引き起こす病気です。

脂漏症には「原発性脂漏症」と「続発性脂漏症」があり、それぞれの原因、症状、特徴は以下の通りとなっています。

種類原因主な症状特徴
原発性脂漏症
(遺伝的な要因が強く、特定の犬種に多く見られる)
・遺伝的な要因
・皮脂腺の異常分泌・代謝性の異常
・皮膚が脂っぽくなる、乾燥する
・フケやかさぶたが増える
・毛の根元がかさぶたで固まる
・体臭が強くなる
・痒がる
・ 脱毛する
・耳垢が増え
・全身に症状が現れる
・皮膚が擦れる部分 (顔のシワ、首の内側、脇や股、指の間、尾の付け根) に特に目立つ
・原発性脂漏症は、幼犬期から症状が出ることが多い
・続発性脂漏症は、原因となる病気の治療によって症状が改善される場合がある
・完治るが難しい場合もある
続発性脂漏症
(アレルギーやホルモン異常など、他の病気の二次的な症状として現れる)
・アレルギー (食物アレルギー、アトピー性皮膚炎など)
・代謝性疾患 (甲状腺機能低下症、クッシング症候群など)
・感染 (マラセチア菌、細菌など)
・炎症 (皮膚の擦過傷など)
・栄養障害 (ビタミン不足など)
・内分泌疾患 (ホルモン異常など)

甲状腺機能低下症

甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの分泌が減少することで起こる病気です。

主な症状は無気力、低体温、心拍数の低下、顔のむくみ、毛並みの荒れ、異常に寒がるなどで、フケや脱毛、色素沈着といった皮膚症状が起こることもあります。

ただ、甲状腺機能低下症の症状は多岐にわたり、未だはっきりしないものも多いです。

種類原因主な症状特徴
原発性甲状腺そのものに異常がある体重増加 、食欲不振、運動の減少 、皮膚の乾燥、脱毛、フケ、皮膚炎 、毛の色変化 、便秘、冷えやすい、頻尿、眼の炎症、疲労感、無気力、行動の緩慢化、攻撃性や不安などの性格変化、犬の甲状腺機能低下症のほとんどがこのタイプ
二次性(下垂体性)脳下垂体の異常原発性と同じ下垂体は甲状腺ホルモンの分泌を調節する役割を担う
三次性(視床下部性)脳の視床下部の異常原発性と同じ視床下部は甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)を分泌する
先天性(クレチン病)生まれた時から甲状腺ホルモンが不足重度の発育遅延、知的障害、呼吸困難、神経症状国内では非常にまれ
(※種類に関しては、「先天性」と「後天性」の分類も存在します。)

脱水症状

原因主な症状特徴
・下痢、嘔吐、消化不良などによる、水分や電解質の喪失
・糖尿病
・高温環境下で体温が上昇し、大量の汗をかく
・腎臓機能の低下
・ホルモンの分泌異常
・十分な水分補給ができていない
・熱中症
食欲不振、元気の低下、流涎、ふらつき、起立困難、舌を出してハァハァと息をする皮膚に弾力がない、おしっこが濃くて少ない、フケが出る・脱水症状の程度によって症状が異なる
・早期発見が重要・軽度の場合、目立った症状が出ないこともある。重症になると、意識障害やショック状態に陥ることがある。
・命に関わることもある

健康を保つために必要な水分が失われると、食欲低下、下痢、嘔吐などの他、皮膚が乾燥してフケが出るという脱水症状が起こることがあります。

水分摂取不足、嘔吐や下痢による水分喪失のほか、熱中症や糖尿病、慢性腎臓病などの病気が原因となっている場合があります。

このように、フケが出るときは、さまざまな病気の可能性があります。

愛犬の様子や全身の状態を確認し、病気の疑いがあるときは早めに動物病院を受診しましょう。

自宅でできる!犬のフケを改善するための対処法

犬のフケが出る原因が日常生活の中にあるなら、原因に合わせて対処することで改善する可能性があります。

ここでは、自宅でできる犬のフケを改善するための対処法を5つ紹介します。

部屋の湿度を60%前後に保つ

空気の乾燥が皮膚の乾燥を招くため、エアコンや加湿器、除湿器などを使って部屋の湿度を50〜60%前後に保ちましょう。

また、愛犬が快適に過ごせるように、室温を23〜26℃程度に保つことも大切です。

いつでも水分を摂取できるよう整える

水分摂取不足による脱水症状を防ぐために、いつでも水分を摂取できるように環境を整えましょう。

給水容器にはいつも水を入れておき、外出する際は携帯用の給水容器で水分補給を促してあげましょう。

愛犬が水を飲んでくれないときは、水分が多いウェットフードを与えたり、ドライフードをふやかしたり、味付きのゼリーを与えたりするのがおすすめです。

シャンプーの方法を見直す

シャンプーの方法が原因の場合は、やり方を見直してみましょう。

シャンプーの頻度は月1〜2回程度が一般的です。

愛犬の皮膚の状態や肌質に合うシャンプーを使い、よく泡立ててから優しくマッサージするように洗いましょう。

37度前後のお湯で丁寧に洗い流し、タオルドライをしっかり行ったら、ドライヤーを体から離して当てて乾かします。

シャンプー後は皮膚が乾燥するので、保湿剤を使って保湿してあげましょう。

犬のストレスを発散させてあげる

犬のストレス発散には運動が有効な方法のため、散歩や遊びの時間を増やしてあげましょう。

スキンシップを増やす、愛犬が快適に過ごせる生活環境を作るといった方法も効果的です。

愛犬がストレスを感じている要因を特定し、解消してあげることも大切です。

栄養バランスの摂れた食事を心がける

皮膚を健康な状態に保つために、栄養バランスの摂れた食事を心がけましょう。

タンパク質やビタミン、ミネラルなどがバランスよく含まれている総合栄養食や、手作りごはんを与えるのがおすすめです。

手作りごはんの場合、市販のドライフードよりも水分が多く、体調や年齢に合ったものを与えられるメリットがあります。

ただし、栄養に関する基礎知識がないと、栄養バランスが偏りやすいので要注意です。

栄養バランスを整えたいときは、市販のフードにトッピングをプラスするサプリメントを活用するといった方法も効果的です。

【犬のフケ】獣医師から伝えたいこと

単なるフケにも実は大きな病気が隠れていることがあります。

フケの症状だけに限らず、「うちの子日記」のようなメモをしておくと診察を受ける際に非常に有効です。

  • いつごろから
  • どんなタイミングでフケが出たのか
  • フケが出るきっかけはあったのか

という所だけでなく、

  • お散歩コース
  • シャンプー
  • 食事やおやつの変更

などについて記載しておくと良いでしょう。

大切な愛犬の異変にすぐに気付けるように、注意して観察するようにしましょう。

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