腎臓の機能が低下してしまう『腎臓病』。
どんな猫もかかりやすく、高齢猫の死因でもっとも多い病気です。原因がはっきりとせず、一度ダメージを受けると腎臓の機能は回復しないため、早期発見・早期治療を行うことが大切です。
今回は、猫の腎臓病の原因やステージ別の症状、治療法について詳しく解説します。
栗山 宏美
麻布大学獣医学部獣医学科卒業
動物病院で3年間臨床医として勤務
現在は臨床医として働きながら保護猫活動のための診療施設ろろの猫部屋を開業
同時に栄養学専門獣医師として手作り食のレシピ設計や監修を行うろろの犬猫食堂を運営
栗山先生の監修した記事一覧
https://woofwoof.jp/specialist/specialist-1221/
- 猫の腎臓病について:急性腎障害、慢性腎臓病
- 猫の腎臓病の原因:尿道閉塞や尿管結石、加齢など
- ステージ別の慢性腎臓病の症状と治療法
- 猫の腎臓病を予防する方法:定期的に健康診断を受ける、食事や水に気を付ける、歯磨きを習慣にする、ストレスのかからない生活を心がける、毎日尿の量や色をチェックする
【猫】腎臓病(腎不全)とは?
腎臓には大きく分けて5つの働きがあります。
- ネフロンと言われる装置で尿を作る
- 体内環境を一定に保つ
- 血圧を調整する
- 血液の体内合成を促す
- カルシトリオールの体内合成
何らかの原因で腎臓がダメージを受け、これらの働きが悪くなる状態を『腎臓病』といいます。
腎臓病には急性腎障害と慢性腎臓病に分類されます。
それぞれの特徴を見てみましょう。
急性腎障害
急性腎障害は、数時間〜数日で急激に腎臓の機能が落ちてしまう病気です。
急性腎障害の主な症状は、
- 食欲がなくなる
- 元気がなくなる
- 尿の量が減る・まったく出ない
- 水を飲む量が減る
- 下痢
- 嘔吐
- 脱水症状
- 痙攣
- 体温の低下
などです。
急性腎障害は急速に悪化しやすく、治療が遅れると命に関わる場合があるので注意が必要です。
急性腎障害は入院治療が基本となり、脱水症状を防ぐ点滴や、症状にあわせた薬剤を使用します。
早急に適切な治療を受けることで腎機能が回復する可能性があるので、異変を感じたらすぐに動物病院を受診しましょう。
慢性腎臓病
慢性腎臓病は長い年月をかけて腎臓の機能が徐々に低下していく病気で、3ヶ月以上症状が続いている状態を指します。
主な症状は、
- 多飲多尿(水をたくさん飲み、色の薄い尿を大量にする)
- 食欲がなくなる
- よく眠るようになる
- 脱水症状がある
- 体重の減少
- 便秘
- 嘔吐
- 貧血
- 毛ヅヤがなくなる
などです。
高齢猫が発症しやすく、高齢猫の死因としてもっとも多いのが慢性腎臓病です。
しかし、若い猫でも発症することがあります。
ネコの腎臓病(腎不全)の原因
ここでは、急性腎障害と慢性腎臓病の原因を紹介します。
急性腎障害
急性腎障害の主な原因は、尿道閉塞や尿管結石です。
尿道や尿管がつまることで尿が排泄できなくなり、急性腎障害を引き起こすことがあります。
大腸菌やブドウ球菌などの細菌が尿路から入り、腎臓に感染することで発症するケースも少なくありません。
他にも、人間の薬や農薬、保冷剤、ユリ科の植物など、毒性を持つものを誤飲することで急性腎障害を引き起こす場合があります。
とくに、ユリの花粉や花瓶に入った水を口にしただけで急性腎障害になる恐れがあるため、自宅に飾るのは避けた方が良いでしょう。
慢性腎臓病
慢性腎臓病の原因は明確になっていないことが多いですが、基本的に加齢による腎機能の低下が原因とされています。
他にも、以下のようなことが影響していると考えられています。
- 細菌やウイルス感染
- 結石などによる尿道や尿管の詰まり
- 外傷
- 心筋症やショックなどによる腎血流量の低下
- 免疫疾患による腎炎
- もともと腎臓の発育が悪かったり、飲水量が少なかったりする
また、急性腎障害になった場合、回復しても腎臓にダメージが残っていて、のちに慢性腎臓病になってしまうケースもあります。
【ステージ別】慢性腎臓病の症状と治療法
慢性腎臓病と診断された場合、血液検査や尿検査などをもとにステージ分類し、治療方針を決めます。
ステージ別の慢性腎臓病の症状と治療法を確認していきましょう。
ステージ | 腎臓機能 (%) | 症状 | 治療法 |
---|---|---|---|
ステージ1 | 33程度 | 症状なし(血液検査異常なし、尿検査で尿比重低下、蛋白尿、腎臓形状異常の可能性あり) | 経過観察、生活習慣改善(食事療法など) |
ステージ2 | 33〜25 | 多飲多尿(水をよく飲む、尿の回数・量が増える、尿の色が薄くなる) | 食事療法、水分管理 |
ステージ3 | 25〜10 | 嘔吐、食欲不振、口内炎、胃炎、貧血、毛づや悪化、元気がなくなるなど(尿毒症症状) | 食事療法、水分管理、貧血治療、制吐剤、胃粘膜保護剤、対症療法 |
ステージ4 | 10以下 | ステージ3の症状が悪化、重度の尿毒症症状 | 集中治療(点滴、透析など)、積極的な対症療法、場合によっては安楽死の選択 |
ステージ1
症状がなく普段通り元気に見えますが、腎臓の機能は33%程度に低下している状態です。
血液検査では異常がなく、尿検査で尿比重の低下や蛋白尿、腎臓の形状の異常が認められることがあります。
ステージ2
慢性腎臓病の初期症状である『多飲多尿』が起こるようになり、「水をよく飲むようになる」「尿の回数や量が増える」「尿の色が薄くなる」といった症状が見られます。
腎臓機能が低下して尿を濃縮できなくなることで薄い尿がたくさん出るようになり、水分不足となって水を多く飲むのが多飲多尿の要因です。
ステージ2では食欲があって活発ですが、腎臓の機能は33〜25%程度に低下しています。
ステージ3
腎機能がさらに低下し、老廃物や有害物質の排泄ができなくなることで、嘔吐や食欲低下など尿毒症の症状が出始めます。
血液中に尿毒素が入りこみ、口内炎や胃炎といった症状も起こります。
腎臓で造血刺激ホルモンの分泌が少なくなるため、貧血を起こすこともあります。
「毛づやが悪くなる」「元気でなくなる」などの症状も起こりやすく、さまざまな症状が起こるので、この段階で飼い主も異常に気づく場合が多いです。
腎臓の機能は25〜10%程度まで低下しています。
ステージ4
ステージ4は腎臓機能が10%以下に低下し、尿毒症の症状がさらに進行します。
積極的に治療を行わないと生命を維持できなくなります。
一般的な治療法
一度壊れた腎臓の組織は回復することはないため、慢性腎臓病を根本的に治すのは難しいです。
そのため、血液中に老廃物や毒素が貯まらないようにすることと、病気の進行を緩やかにすることが治療の目的となります。
基本的には、以下のような治療を行います。
- 点滴やこまめな水分補給(脱水予防・老廃物の排出の促進のため)
- 低タンパク・低リンの食事を与える食事療法(腎臓への負担を抑えるため)
- 薬物療法(症状の緩和や脱水状態の改善など)
動物病院によっては、腹膜透析や血液透析、再生医療といった治療を行う場合もあります。
猫の腎臓病を予防する方法
ここでは、日常生活でできる予防方法について紹介します。
定期的に健康診断を受ける
慢性腎臓病は飼い主が異変に気づいた頃には症状が進行しており、腎臓の機能の半分以上が失われていることが少なくありません。
そのため、動物病院で血液検査や尿検査などの定期的な健康診断を受けておくと、早期発見・早期治療を行えます。
慢性腎臓病は高齢猫に多い病気のため、これまで健康だった猫でも、半年に1度または年に1度は健康診断をすることをおすすめします。
食事や水に気を付ける
慢性腎症病の発症リスクを低くするには、若い頃から腎臓に負担をかけないようにすることが大切です。
欲しがっても塩分の多い人の食べ物は与えず、総合栄養食をメインにキャットフードを与えましょう。
愛猫の好みに合わせた容器や自動吸水器を用意する、猫のお気に入りの場所にいくつか水飲み場を作るといった方法で、水をたくさん飲めるように工夫することも重要です。
水飲み器に入れる水の量を計量しておき、24時間後に再度計量して1日の飲水量を確認しておくと、飲水量の変化に気づきやすくなります。
歯磨きを習慣にして歯周病を予防する
歯周病菌が血液を介して全身に広がると、腎臓にも炎症を起こして腎機能を低下させる可能性があります。
猫の場合、口に残った食べかすは食後1日で歯垢になり、1週間程度で歯石になるといわれています。
こまめに歯磨きをするようにして歯周病を予防すると腎臓病の発症リスクの低下にもつながるため、少なくとも週1〜2回程度の歯磨きを習慣にしましょう。
ストレスのかからない生活を送らせてあげる
ストレスは免疫力を低下させ、さまざまな病気のリスクを高めます。
- 猫が快適に過ごせる室温や湿度を保つ
- 安心して過ごせる場所を作る
- キャットタワーやキャットウォークなどを設置して上下運動を促す
- おもちゃで一緒に遊んであげる
など、ストレスが溜まりにくい環境を整えてあげましょう。
毎日尿の量や色やニオイを確認する
慢性腎臓病で始めに現れる症状は、尿の変化であることが多いです。
尿の量が増えて、色が薄くなりニオイもあまりしなくなることがあります。
急性腎障害の場合は極端に尿が減るのが症状のひとつです。
腎臓病の兆候に気づく大きな手がかりとなるため、毎日尿の量や色、ニオイを確認しましょう。
猫の腎臓病(腎不全)は早期発見が重要!
猫の腎臓病は原因が明確になっていないこともあり、完全に予防することが難しい病気です。
猫は痛みや不調があっても見せないようにするため、飼い主が気づく頃には進行しているケースもよくあります。
しかし、普段から猫の様子を観察し、健康を維持しやすい生活環境に整えることで発症リスクや進行を抑えることにつながります。
今回紹介した予防方法を実践し、気になる症状があれば、すぐに動物病院を受診しましょう。
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